フランチャイズ訴訟の傾向と対策
株式会社サークルKサンクスとの和解 – ロスチャージ問題について –
石井 逸郎
6月20日、東京地方裁判所で、都内で約10年間2つのコンビニ店舗を経営してきたある店長さんと本部・サークルKサンクスとの間で、平成13年から係争中の事件について、ようやく和解が成立いたしましたので、以下、報告します。
本件は、閉店に際して本部側が、店長に対し約1000万円の清算金支払請求を主張し、これに対し店長側は、かかる負債の存在は、そもそも本件各店舗の立地に際しての本部側の収益予測のずさんさに原因があることを主張するとともに、メインの主張として、店長が本部に支払っているチャージに過払いがあることを主張し、かかる過払い金の返還を求めた、という事案です。
1、ロスチャージ問題とは何か?
本部と加盟店との間の契約書には、チャージについて、「売上総利益」に所定のチャージ率を乗じる、としか記載はありません。この点、企業会計原則では、「売上総利益」の計算式は、ある会計期間中の売上高から、当該会計期間中の全ての売上原価を控除して算出する、とされています。ところがサンクスのシステムでは、「売上高―(売上原価―不良品・棚卸差異等原価)」という式で「売上総利益」を算出し、これにチャージ率を乗じてチャージを取得していたのです。
「不良品」というのは、売れ残り、期限切れとなって処分してしまった商品のことであり、「棚卸差異」というのは、万引きやレジ打ちミスを理由に、陳列商品量に差異が生じた場合のその差異分のことです。俗にこれらを「商品ロス」と称するところ、企業会計原則では、小売業にとってかかる商品ロスの発生は不可避であることから、かかる商品ロス分の原価も含めて売上原価として扱い、「売上総利益」を算出するのに対し、サンクスでは、先ほどの式のとおり、これら商品ロス分の原価を売上原価から控除し、控除後の売上原価(サンクスではこれを「純売上原価」と表現する)を売上高から控除して「売上総利益」を算出していた、というわけなのです。
先ほどのサンクスの計算式の括弧を外していただければわかるとおり、サンクスの式の場合、企業会計原則に基づく「売上総利益」にチャージ率を乗じたチャージ額よりも、商品ロス分の原価にチャージ率を乗じた分だけチャージ額が高くなることがわかるでしょう。私たちは、この分を「ロスチャージ」と称し、これは契約書には全く根拠のない過払いであるとして、その返還を求めたのです。
この点、資料によって推計できるだけでも、10年間で、総売上高約38億円のうち、約8375万円の商品ロスが発生し、ロスチャージは約3400万円に達していました。
2、和解の内容
平成13年の夏に始まったこの訴訟は、店長やサンクスの担当者の証人尋問を経て、冒頭で紹介したとおり、和解によって解決をしました。
その内容は、サンクス本部も清算金請求を放棄するかわりに、こちらもロスチャージ返還請求を放棄し、互いに債権債務がないことを確認するというものでした。
本和解は、あくまで和解ですので、裁判所は、こちらの主張を認めたわけではありません。しかしながら、サンクス側も、ロスチャージ問題での敗訴のリスクを考慮して本和解に応じる決断をしたわけだし、こちらとしても、事実上、ロスチャージ返還請求のうち相手に放棄をさせた約1000万円分の経済的利益は回収し得たとも評価できるとして、本和解を積極的に評価しています。
3、ロスチャージ問題のこれから
東京高裁がかかるロスチャージを「不当利得」であるとしてその返還をコンビニ本部に命じて以来、この問題の議論が高まっています。本和解もこの流れを受けて成立したものです。
ただそこではまだ、ロスチャージが契約上過払いにあたるかどうかの観点から議論されているに過ぎません。この点、私たちは、ロスチャージ問題について、単に契約書における文言「売上総利益」の解釈の問題としてのみ扱うのではなく、ビジネスモデルの合理性の点でも議論されなければならない、と考えています。すなわち、“商品ロスからチャージをとれる”という仕組みが、本部側に加盟店に対する商品発注の強要を誘発し、ひいてはコンビニにおける大量の商品ロスを発生する遠因ともなっていますし(コンビニで大量に捨てられる弁当を見たことがあるでしょう。まさに大量のゴミの発生であり、社会的損失(無駄)です。)、あるいは、コンビニ本部は、コンビニ・フランチャイズの仕組みを、本部と加盟店の“共存共栄”だとか“荒利分配方式”などと称しているにも関わらず、ロスチャージを徴収する仕組みは、不可避的に発生する商品ロスの負担を全て加盟店に押し付けるという点で余りに不当であり、適正な荒利(売上総利益)の分配だとは到底評価できないこと等も考慮すると、到底合理性を有するビジネスモデル足りえず、商品ロス分だけ加算されるコンビニ・フランチャイズのチャージの計算式は修正されなければならない、と考えているからです。
私たちは、本件訴訟において、関係者の尋問後の最後の準備書面で、以下のように主張しました。
「……したがってかかるチャージの計算式が、商品ロス分にもチャージがかけられるということから、加盟店側に商品ロスの発生を抑制させ、従業員の万引き等といった加盟店側の不正の防止を促す効果をもつとしても、その効果は相対的・限定的なものに過ぎないことが明らかとなる。なぜなら、前述のとおりそもそも商品ロスは、加盟店側の不正のみを理由として発生するものではないし、従業員の万引きに至っては、どんなにオーナーが厳しく監視しても、その発生を根絶させることは不可能であり、究極的には当該従業員の内心、倫理観にこそ左右される問題だからである。
これに対して、かかる計算式の、本部側にとって、売上総利益が低下しても(すなわち売上が低下しても)、商品ロス分からも確実にチャージを徴収できるという性格こそは、絶対的である。そして、チャージこそは本部側の収益の源泉に他ならないから、かかる計算式は、本部側に、実際の販売可能性・商品ロスの発生可能性を考慮することなく、加盟店に対する、商品ロスの発生を恐れない大量の商品発注を迫る「経営指導」を誘発することになるのである」
「すなわち、かかる計算式は、いかに安定的にチャージを徴収できるか、という徹頭徹尾本部側の利益に沿って考案されたシステムなのである」
私たちには、本件訴訟を通じて、サンクス側の主張をどんなに善意に解釈しても、ロスチャージを徴収する仕組みには、以上の理由以上の合理性を見出すことはできませんでした。
今後、このロスチャージ問題についての、社会経済的、道徳的な観点からの、さらに深化した議論を期待したいと思います。