よくあるご相談事例

さまざまな法律問題について、皆さんがよく相談される典型的なケースをご紹介します。
なお、回答はあくまで一例にすぎません。

家事事件(相続・遺言・離婚・成年後見)

【離婚】

 夫が別の女性とつきあっていて、もう2年も別居中です。小学生と中学生の子供がいます。夫からは別れてくれといわれています。離婚に応じたくありませんが、裁判を起こされたら離婚が認められてしまうのでしょうか。また、財産としては、ローン返済中の夫名義のマンション(ローンはほとんど残っています)しかありません。離婚に応じるにしても、マンションは私のものにできないでしょうか。その場合、ローンは引き続き夫に払ってもらえるでしょうか

 協議離婚に応じない場合、夫がどうしても離婚したければ、最終的には裁判所に離婚を請求してくるでしょう。その場合であっても、いきなり裁判をすることはできません。まず、離婚の調停を申し立て、調停で話がつかなかった場合に初めて裁判を提起できます(調停前置主義といいます)。仮に調停が不調となり、裁判になったとしても、別の女性ができたことが原因で婚姻関係が破綻したという場合、夫の側に責任があるので(この場合の夫を有責配偶者といいます)、夫からの離婚請求は認められないケースが多いとはいえます。

 長期間にわたる別居により婚姻生活が完全に形だけのものとなり、成人していない子どもがいないなどの場合、裁判所が離婚を認めることもあります。あなたの場合は、別居後2年しかたっていないこと、未成熟の子どもがいることを考えると、裁判所が判決で離婚を認める可能性は低いと思います。
 裁判所で話し合って離婚に応じる場合は、慰謝料や財産分与を離婚条件として提示することになります。また、子どもの養育費も請求できます。離婚条件として、財産分与の形でマンションの名義を変更させ、ローンを夫に支払わせることも合意すれば可能です。また、子どもが成人・自立するまでの間の養育費も決めることができます。

【相続問題】

 父が亡くなりました。母は既に死亡しており、子どもは、私(長女)、長男、次男、次女(既に死亡し、子どもが一人だけいます)です。父の財産には、自宅の土地・建物のほか、いくつかのマンションがあります。父は、長男にすべての財産を相続させるという公正証書遺言を遺していました。長男は、結婚後、自宅を購入する際に、父から3000万円ももらっています。それなのに、全財産を長男だけに相続させるなど納得がいかないのですが、私としてはどのような権利を主張できるのでしょうか。また、その方法についても教えて下さい。

 相続人は、あなた(長女)と、長男、次男、次女の子ども(代襲相続人)の計4人、法定相続分はそれぞれ4分の1ということになります。遺言で全財産を長男にということになっていても、遺言によっても自由に処分することのできない「遺留分」がありますので、あなたも遺留分減殺請求をして、遺留分を取得することができます。

 遺留分は、本件のように子が相続人である場合は、被相続人の財産の2分の1について認められますので、この2分の1にあなたの法定相続分4分の1をかけた8分の1があなたの遺留分ということになります。被相続人の財産の計算の中には、遺産のほか、長男が被相続人から自宅購入資金として贈与された3000万円も含めて計算することになります。

 遺留分は、放っておいても受けられるというものではなく、遺留分減殺請求をしてはじめて受けられるものです。遺留分減殺請求は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内に行わないと、時効によって消滅してしまいますので、その期間内に配達証明付内容証明郵便などで、確実に権利行使をすることが必要です。
 遺留分がどの範囲で認められ、それをどのように確保するかというのは、実際の場面では非常に難しい問題を含む場合が多いので、早急に弁護士に相談することをおすすめします。

【遺言の話(その1)】

 遺言を作ろうと思っています。自分で遺言書を書きたいのですが、どのような点に注意すればよいでしょうか。また、公正証書遺言の方が確実だという話も聞きますが、どのような点が違うのでしょうか。

 ご自分で遺言を作成される場合、その遺言の事を「自筆証書遺言」といいます。遺言の中でも、もっとも簡便に出来る方法ですが、自筆証書遺言は、とかく効力が問題になりますので、注意が必要です。

 民法968条1項に「自筆証書遺言」に関する条文があって、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日附及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と書かれています。
 したがって、ワープロで書いたもの、一部でも他人が書いたもの、日付が抜けているもの、押印がないものは、いずれも有効な遺言とはなりませんので、注意が必要です。

 このとおりの方式が守られていると言えるかどうかが裁判で争われたケースに、次のようなものがあります。

(1)他人の添え手による補助を受けてされた遺言
 最高裁判所は「病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、

  1. 遺言者が証書作成時に自書能力を有し、
  2. 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、
  3. 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、『自書』の用件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である」(最高裁昭和62年10月8日判決 判例タイムズ654号128頁)

として、一般論としては、一定の場合に添え手もよる補助を受けてされた遺言でも有効な場合が有り得ることを認めています。しかし、実際に争われた当該ケースについては、「支えを借りただけ」とは言えないとして、無効になっています。

(2)指印による押印のある遺言書
 最高裁判所は、自筆証書遺言によって遺言をする場合の有効用件としての「押印」について、「右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇印その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること」をもって足りるとしています(最高裁平成元年6月20日判決 判例タイムズ704号177頁等)。

(3)自筆証書遺言には遺言者の押印がないが、これを入れた封筒の封じ目に封印をした場合
 東京高等裁判所は、「同条項(民法968条1項)が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されるから、押印を要する右趣旨が損なわれない限り、押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないものと解するのが相当である」。

 「本件遺言書が自筆証書遺言の性質を有するものであるということができ、かつ、その封筒の封じ目の押印は、これによって、直接的には本件遺言書を封筒中に確定させる意義を有しているものと解せられ、これによれば、右押印は、自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の前記趣旨を損なうものではないと解するのが相当である」(東京高裁平成5年8月30日判決 判例タイムズ845号302頁)として、自筆証書遺言として有効であると認め、上告審の最高裁判所も、この結論を支持しています(最高裁平成6年6月24日判決 家裁月報47巻3号60頁)。

 このように、遺言の有効性が争われ、裁判所で無効とされたケースもあれば、有効として救われたケースもあるわけですが、出来れば、最初から争いを残さない遺言にしたいものです。
 拇印でも認められる場合もあるとはいえ、遺言者本人の拇印であるかどうかということが争われることになって、有効性が否定されないとも限りません。自筆証書遺言では、実印でなければならないということはありませんが、遺言者本人の押印であることをはっきりさせるためには、署名の下に実印を押捺するに越したことはありません。
 筆記能力に問題のある場合には、自筆証書遺言は難しいと考えた方がよさそうです。公正証書遺言であれば、筆記する場面は署名だけであり、署名することができない場合は、「公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる」ことになっていますので、筆記能力に問題がある場合でも大丈夫です。
 遺言は、遺言者の状況によって、時間的な余裕がある場合もそうでない場合もあり、一概には言えませんが、一般的には、公正証書による遺言にしておくのが、検認手続もいらないし、後々の争いが少なく、ベターであると言えるでしょう。